MacによるOA化について書いてきましたが、更にその後の経緯について 続けましょう(この辺のところはまさに実況放送のようなもので、リアルタイ ムの報告です)。
とりあえず素人の事務員にも比較的入りやすい名簿管理あたりからMacを 使ってもらおうと考えていたのですが、うまくいかないのが世の中というもの で、経理のベテラン事務員が2人も続けて辞めることになり、最も大変そうな 経理のアプリケーションから私が書くことになってしまいました。 ものは考えようで「現場で一番大変なものからOA化することが大きな導入 効果につながる」ことではあります。
Macは使うには快適でもアプリケーションを開発するには大変なシステム という印象が強いので、4-th DimensionかExcelあたりを 使って開発することを考えましたが、その前にとりあえずは他の役員にデモす るためにと、HyperCardで経理の入力部分を作ってみたところ、これ が意外にイケそうです。
勘定科目の仕訳など慣れた事務員なら何でもないことでも新しい事務員にとっ てはイチイチとまどうところですが、HCでは普段手作業で使っている伝票そ のままのものを画面に表示し、そこに入力していく形のものを極めて簡単に作 ることができました。
医師会は公益法人会計で色々な特別会計があり、大変複雑です。これをコン ピューター化すると勘定科目も各特別会計ごとに絞りこむことができるので、 少なくとも選択の巾を狭めることができますが、これをHCで作成すると殆ど マウスのクリック一発ですんでしまい、数値入力以外は余りキーボードに触れ る必要がありません。
一方で4-th Dimensionも購入したので、これを勉強しながら 同様のものを作成してみましたが、4Dは良くできているとは言え現在のとこ ろマンマシーンインタフェースの面で、とてもHCにはかなわないような感触 を持っています。
「HyperCardは確かに素晴らしいけど、いったい何に使うの?」と いう意見があります。実際のところ私も内心「本当に仕事に使うにはドウモね」 と考えていたのですが、ちょっと考えを改めなければならないのではないかと 思いはじめました。
ただデータが多くなった時のレスポンスという面で4Dの有利さが現れてく るのではないかと思うのですが、、、 まあ、この後のことはまた追ってレポートすることにしましょう。
話は変わりますが、カルテの電子化はライフワークの一つで、これまた何度 も登場してくるテーマです。 私が「電子カルテ」なる言葉を医療情報学会雑誌の論文中で使ったのは4年 前で、このようなものはまだ世に存在せずコンセプトを練るだけでかなりの日 時を費やしてきました。
ついこの間までは、どうせ作るなら何とか一般ユーザに使えるものをと考え 試行錯誤の4年を過ごしてきたのですが、ここでガラっと発想の転換を図るこ とにしました。どうも最初から八方美人はだめのようですので、ヨシそれなら 自分が実際に欲しいシステムを作ってしまおうという訳です。
「電子カルテ」の開発には幾つかのフェーズを考え、最終的なものとしては コンピューターに全く無関心のユーザが使っても十分実用に耐えるようなシス テム、即ちMacのようなインタフェースで使えるものを考えていますが、最 初のフェーズは私自身が日常診療に使えるシステムを作成することに全力を注 ぐことにしたのです。
となると、絶対にEmacs環境の中で使えるものが欲しい。この中にいれ ば、電子メイルからUNIXのシェルからありとあらゆることができるし、文 書処理も得意中の得意です。そしてLispでアプリケーションを書いて組み 込んでしまうことができます。 そこでまず電子カルテという難しい概念なしに、兎に角Emacsの中でカ ルテを書いてみることにしました。
カルテのページをテンプレートからコピーする際、日時は自動的にタイムス タンプしてしまおう。所見の記載項目にカーソルを移動するのは一定のキーに バインドして、一発で移動できるようにしよう。前回来院時と同じ所見や処置 を記入するのは、特定キーにバインドして一発で転記してくれるようにしよう。 、、などやりたいことをEmacsに追加して行きました。やってみると極 めてラクチンという他ありません。色々の小道具を組み込むことも簡単です。 Emacsの多くの機能はLispで実現されていますが、開発はEmacs の中でできるし、インタープリタ的にちょっと試すことができます。
ここでHyperCardとEmacsの決定的共通点に気がつきました。 今、自分が求めているのはこのようなツールなのです。 どちらの場合も、アプリケーションを作っていてこんな機能が欲しいなと思 うと、必ずそのような関数が用意されていて感激してしまいます。 自分が必要とする機能の実現法がわからないときはそこに提供されているソー スを参照できたり、コピーしたものを自分なりにモデイファイして使えるとこ ろも全く同じです。
このような所にコンピューターソフトに対する日米の考え方の違い、ひいて はコンピューター文化と発達段階の差を実感してしまいました。 極端な言い方をすれば米国の場合、百人のユーザがいれば百通りの使い方に 対応できなければなりませんが、日本では一通りの使い方を提供し、百人のユー ザがそれに合わせるという考えのようで自由にモデイファイできるという考え は基本的にないようです。
HyperTalkは明らかに高級言語と呼んでよいと思いますが、これや Lispなどでアプリケーションを組むのはCに比べ、かなり楽です。 Cはマシンに密着した部分のきめ細かいコントロールができるのが利点です が、これは逆に欠点でもあり、プログラマーもきめ細かい配慮を強いられるこ とになります。
ところが、HyperTalkやLispではシモジモのことに気を使う必 要はありません。「何をやるかだけ言っとくからアトは適当にやっといてね」 という感じです。
というような訳で、このゴールデンウィークはHyperTalk、4D、 Lisp、それに別件で勉強する必要のあったPrologと、いっぺんに4 つの言語(厳密には4Dなど言語とは言わないものを含むが、実際はそんなよ うなもの)を勉強することになってしまい、医科大学に入学した頃を思い出し ました。あの時は、ドイツ語、フランス語、ラテン語、英語と、いっぺんに詰 め込まれてアーベーセーだか、アーベーツエーだかゴチャゴチャになって、本 当に参った、、、