現状でもっとも快適なコンピューテイング環境はというと、sun のようなパ ワフルな UNIX マシーンの上で Mac のような使いやすい GUI(Graphic User Interface) と、それを駆使したアプリケーションを使うことだろうと思う。
理想的イメージは、エンドユーザは Mac の HyperCard のようなものの 中で仕事をすることであるが、実際にはその Mac はネットワーク上のUNIX WS に繋がっていて、そこのデータベース・サーバのデータをシェアしている。 Mac の GUI と UNIX マシーンのマルチ・ユーザ、マルチ・プロセス、そして 巨大な記憶空間を利用することこそ、これからのオフィスの理想的作業環境で はないかと思っている。
このように「UNIX の上で動く Mac が理想」と言うのが私のかねてからの持 論である。と思っていたら、一昨年これをそのまま実現した NeXT が発表され たので、日本で発売されると同時に早速導入した。
しかし残念ながら NeXT も現状では Mac が発売された時と全く同じで、 「日本語が使えない」、「アプリケーションがそろわない」、「パワーが足り ない」ということで、特に日本語が使えないのが致命的である。
そのため現在、私のところではまだ NeXT は実用稼働の段階には入っておら ず、単なるX端末として動いている(勿体ない)。待ちに待った日本語OSが6 月にリリースされ、CPUも68040にアップグレードされるので、いよいよ これから徐々に本格稼働ということでいきたい。
私は何でも先物買いなので Mac も発表されると同時に買い込み、2年以上 単なる「お絵かきマシーン」としてしか使えなかった。その初代 Mac は先月 号に書いたように息子に譲り、この春思い気って Mac IICi を入れた。sun や NeXT があるのに何で今更 Mac をということだが、sunやNeXTがいかに優れた 素質を持っていようと現状で使うに最もベストのマシーンは Mac ではないか との思いが最近強くなり、その衝動に抗しきれなくなったからである。
そして Mac IIci を入れてみて、このことが私の想像を超えて事実であるこ とがわかった。Mac にはイーサカードを入れて、直接 sun や NeXT とイーサ ネットで接続してある。GatorBox や FastPath など Ether と LocalTalk と をゲートウエイさせる方法もあり、Mac の台数が多い場合はその方が安上がり なのだが、私の場合は GatorBox が余りにも高価だったことと、これからの Mac はLocalTalk ではなく、もっと本格的かつUNIXでは汎用の TCP/IP で接続 するべきであろうとの考え方があったからである。
現在、SPARCstation1+ のコンソールの前に座ることはほとんどなくなって しまった。sun を使うにも Telnet で Mac を端末に使うようになったのであ る。それは何故か。
理由の一つは本質からややはずれる単純なことである。うちの SS1+ はモノ クロだが、Mac IIci から Telnet する場合は端末のバックグラウンドカラー などが自由に設定できる。現在は淡いブルーを地に濃いブルーの文字を設定し て使っているが、大変奇麗だし文字も見やすいので気に入っている。
もう一つの理由は、Mac には便利なデスクアクセサリーその他が一杯あって、 必要に応じてそのようなものを使いながら、端末ウインドーの中の sun にcut and paste したり出来る。現在この原稿もそうやって Mac の中から Telnetを 介して SS1+ の Nemacs を起動して書いている。sun では Nemacs とか、TeX とか重装備のパワフルなアプリケーションはあるが、Mac のように手軽で便利 な小道具の類はまだまだ手に入らない。 そして、その両方を同じ平面で使いたいとなると、現在の組み合わせになる というわけである。
「Mac のアプリケーションを使うのは天国だが、Mac のアプリを書くのは地 獄」ということをよく聞いてきた。これを信じ Mac 上ではかたくなにプログ ラミングに手を出すことを控え、HyperTalk, Wingz, 4th Dimension などを使っ てきた。
しかし、この春に「Macintosh C プログラミング」という本を手に入れたの をきっかけに Mac のプログラミングに手を染めることになってしまった。今 まで、BASIC, UCSD Pascal, UNIX と C, Lisp など全て本だけを頼りに独学で 習得してきたが、Mac のプログラミングに関しては良い本がなかったのである。
しかし、この本は素晴らしい。この本と Think-C についているサンプルプ ログラム、そして Inside Macintosh を座右に置いて、ぼちぼちと Mac のプ ログラミングを始めてみたところ、意外に簡単に作りたいアプリケーションが 作れてしまった。
いつも私が新しい言語に挑戦する時のやり方がそうであるように、まず sun の上で長年使ってきた経理用アプリを Mac に移植することにした。アルゴリ ズムが確定し現実に使っているものを移植するのが一番理解しやすいからであ る。
Mac のプログラミングにはウインドーやダイアログを使うために、おまじな いのような部分がある。ここが従来のプログラミングでは経験しなかった部分 であり、難解で大変かなと思ったのだが、やってみるとそうでもない。ある程 度のところを突破すると、作業は意外に簡単に面白いように進行した。ちょう ど、毛糸のセーターを解くように。
Mac のプログラミングが面白くて、現在は完全に「はまって」しまっている。 10年近くの間作りたくても作れなかった、ウインドー、プルダウンメニュー、 ダイアログボックスなどを駆使したアプリケーションが遂に自分で作れるよう になったのだから(X-window のアプリは大変そうなので、今の所手を出す気 がしない。これも、やってみればそうでもないのかも知れないが)。
これが一段落したら今度は NeXT 上に移植することを考えている。恐らく、 Mac と NeXT ではプログラミングに共通する考え方も多いだろうし、ある程度 のみ込んでしまえば NeXTstep の方が更にアプリの構築は能率的なのではない かと期待している。
現在のネックは、日本語対応のOSがまだキヤノンから届かない。そして、2 番目に NeXTstep の良い参考書がない、の2点である。