わーくすてーしょんのあるくらし(10)
1987-10 大橋克洋
< 1987.09 システム手帳とワークステーション | 1987.12 ワークステーションとマンマシーンインタフェース >
今月も本来のテーマからちょっとはずれるかも知れないが、 ワークステーションで必要とされるより良いマンマシンインタフェース という観点から、パソコン用ではあるがより良い日本語環境を提供する道具が 最近発売され、さっそく手に入れたのでレポートしてみたい。
前から心待ちにしていたPC-9801用のオアシスキーボードが「親指君」 という名称でアスキーから発売されることになった。データショウで操作してみたが、 非常に具合が良さそうなので発売前から予約した。
発売と同時に宅急便で届いたキーボードを、 さっそく旧型のPC-9801に接続しようとしたがコネクタの規格が違ってダメ、 でも気にすることはない。 本当に使いたいのはもう一台のPC-9801Fの方なので、 これに接続してみるとバッチリ。
これには OAword/98 というワープロソフトが附属していて、 富士通のワープロ専用機オアシスをかなり忠実にエミュレートしている。 この原稿もこれを使って書いているが、一太郎よりずっと快適である。 おっと「一太郎」に変換しようとすると、その前に「市太郎」がでてくる。 辞書の学習機能もうまく作動していないようだ。
スピードそのものはやはり一太郎の方が早いようだが、 こうして実際に原稿を書いてみるとこちらの方が格段に使いやすい。 文節の移動や複写に一太郎のようないらだたしさがなく人間工学的に 自然に素早くできる点や、左端設定・右端設定を使って行ごとの段落を 設定変更できる機能があるのは大変ありがたい。ちょっとしたことのようだが、 これが一太郎では最も不便だったことである。
それからもう一つ、一太郎のメニュー形式は確かにマルチプランなどと共通性があって 初心者にはよいが、慣れた者にとっては実にイライラさせられる。 エスケープキーを使ってメニューによらないモードもあるのだが、 vi などのエディタを使い慣れているせいかどうも使いにくい。
OAword/98 の場合、文章を MS-DOS のテキストへ落とすことができるので大変便利である。 しかしもう一つの変換方式であるオアシスF-II との文章変換はどうもうまくいかないようで、 これもバグなのかマニュアルの読み方が足りないのか、まだ深く追及していない。
しかし「親指君」にも改良するべき点がないわけではなく、むしろ一杯あるのも事実である。 まず発売当初の製品につきもののバグがウジャウジャある。しかもかなりシロウトっぽい 感じのバグが次から次へと湧いてきて、アスキーファンの小生としては いかにもアスキーらしいと一人ニヤニヤしている次第。
しかしまだ致命的なバグにはぶつからないので、 こうして原稿を書いていてもバグのない一太郎を使うより、 バグのある親指君を使うほうが格段に快適である。 ここに書くにも値しないようなバグはどうせ近いうちに修正されるであろうが、 当面改良してほしい点をあげると、長い文章で先頭に近い方に修正を加えようとすると 全文をいったんディスクへ落とすらしく、かなり待たされる。 ハードディスクやラムディスクなどを使えばかなりカバーできようが、 早急に何とかするべきだろう。 文章の途中に挿入すると画面が一旦全部書き換えられるが、 そのスピードが最近の標準的ワープロと比べやや遅いので、かなりうるさく感ずる。 せめて挿入部分から下のみ書き換えるよう改良すべきであろう。
それから前述のように辞書の学習機能が作動していない。 マニュアルもろくに読まずにいきなり使い始めるのが悪い癖なので、 あるいはどこかで設定できるのかも知れないが、 少なくともデフォルトではおバカさんのようである。 今後アスキーに期待することは、オアシスの機能はそのままにエミュレートしたまま、 次第に磨きをかけてさらに高性能なアッパーコンパチブルの製品に育てて欲しいことである。
キーボードは PC9801純正のものとコンパチなので、 このキーボードで一太郎を使ってもかまわない。 ただし OAword/98 は VJE をフロントプロセッサに使っていて、 ATOK を組み込むことはできないようである。このため用途によって 一太郎やATOKそのものを使いたい場合は、 いちいち config.sys を書き換えてリセットしなければならないのは不便である。
もし可能であれば OAword/98でATOKも使えるようにしてほしい。 せっかく日電製品の上でも富士通製品?が使えるようにしたのだから、 ATOKも使えるようにしましょうよ、ねえアスキーさん。
オアシスとして使っているぶんにはキーボードに何の不満もないのだが、 従来のアプリケーションを使うにはちょっと使いにくい配置も多い。 自分としては親指シフトが使え大満足なのだが、エスケープキーや コントロールキーの位置がいつもと全然違うし、 @だのアンダーバーなどはとんでもない所にあるので、 特に UNIX の端末として使う場合には多いに問題がある。これもぜひ改善するべきだろう。
それから最もよく使うリターンキーが小さく 右小指から離れているので、よく打ち間違える。 純正オアシスの配列を損なわずに大きさや位置を微妙に変更するだけで対応できそうなので、 これも重要な改良点である。
ついでに一般的な話しだが、机の上を占領するキーボードは 極力コンパクトに設計して欲しい。いや、コンパクトなバージョンも用意して欲しい。 親指君のキーボードを見ても、メインキー列とカーソル移動キー、さらにテンキーの 間にかなりの余裕がある。
これらはもっとくっつけてキーボード全体をコンパクトにしてほしい。 リコーのマイツールのようにテンキーパッドを別にするのも大変良いアイデアである。 マッキントッシュなどもそもそも本体が大変コンパクトなところへもってきて、 キーボードが小さくテンキーも別付けなので大変な省スペースを実現している。
ここで富士通が親指シフトキーボードとオアシスのライセンスを アスキーに許した大らかさには心からの賛辞を送りたい。
今後わが国でもこにょうに良いものは企業やイデオロギーを超えて どんどん相互に流通する精神が普通になってくることを心から望む。 オープンマインド・オープンアーキテクチャーこそ、 良いコンピュータ環境を作るために これからの日本に絶対必要なものである。
コンピュータを独学ではじめてから丁度9年になるが、 当時から「どうしてコンピュータの世界にはオーディオの世界のように 周辺機器やソフトの互換性がないのだろう。一社で本体から周辺機器のすべてを そろえなければならない必要がどうしてあるのだろう。 わが社の本体は他社に比べて格段に優れています。しかし CRTはS社、 プリンターはE社のものを使うのがベストでしょう」とおおらかに言ってしまう方が 良いのになどと思ったりしたものである。
さて夏休み以来、本題のワークステーションの話題からだいぶそれてしまった。 長期の連載となると、なかなかネタが続かなくて時々息抜きが入るのもお許しを。 わが SUN-3にも明日、日本語OSが載り、念願のハードディスクも拡張できることになったので、 次回はその辺のご報告ができるかも知れない。
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