1999.10.2 山形県鶴岡地区医師会での講演より
大橋産科婦人科 大橋克洋
最近、電子カルテという言葉をよく見るようになりました。 紙面に限りがありますし、電子カルテ自体の説明はいろいろな雑誌 などに書いておりますので、いま「なぜ電子カルテなのか」という ことに絞って御説明したいと思います。 われわれは現在、色々と解決すべき問題を抱えています。
医療費削減への対応
自由経済の日本の中で、医療だけはどんどん統制経済すなわち他 の力によるコントロール下に押し込まれつつあります。人件費や諸 物価の高騰や生産人口の減少傾向など、これに追い討ちをかける状 況もあります。
社会の要求への対応
日本が高度成長をとげて国民のすべてが一定水準の生活をできる 理想の世の中になりました。誰もがより高い水準の医療を求め、自 分の権利を主張する時代となりました。高い医療水準、あやまりの ない医療、よりよいサービスが求められています。
情報化の時代への対応
また情報化の時代となって、ホームページなどを利用して一般社 会の人々の方が特定領域については、われわれより最新の高い情報 を持つこともあり得るようになりました。受益者も供給者もふくめ た情報の共有化が進行しつつあり、情報の孤島は悲劇を生むことに なります。
今迄ですと、以上をクリアすることはとても難しいことでした。 しかし、コンピュータなどの技術革新によって、これらも手の届く 費用で実現可能となり、誰でも使える程度にやさしくなりつつあり ます。つまり、技術革新により現実的なものとして実現可能になっ たのです。 では、電子カルテにより、どんな良いことがあるのでしょうか。
診療の作業効率を高める
診療録記述の援助をしてくれるので、紙のカルテ時代は余り書か なかった内容も充実してくるのには驚きます。人間がやらなくても よい作業の自動化により、大切なことを書く余裕ができるからで す。また、ユーザごとに異なる様式、使い勝手ができますので、慣 れるほどに快適な診療ができます。
診療は便利な電子カルテで行いますが、法的な診療録としての紙 も残すことができます。
サービスの向上
電子カルテに慣れてくると、患者さんの待ち時間の減少、診療内 容が濃くなる、インフォームドコンセントをしやすい、などの効果 が現れてきます。電子カルテの見かけは施設ごとにまったく違って いて構いませんが、データ自体は相互に互換性を持たせられます。
紙のカルテではできないことができる
紙のカルテでは外来と病棟で同時に読み書きすることはできませ んが、ネットワーク機能を利用してそのようなことも可能になりま す。情報の集中(患者の氏名・生年月日・住所などは集中管理)と分 散(臨床検査データなどは検査部門で管理など)を上手に利用すると 効率的なデータ管理ができます。
データベース・サーバや診療費計算サーバなどで、作業を分散処 理できます(給食や臨床検査の外注のようなもの)。
そして、コンピュータ化最大のメリットは、状況を大局から俯瞰 できることです。手作業では目の前のものしかわかりませんが、全 体像を的確にとらえる資料を提供してくれるのが最大の強みです。
カーナビゲーション・システムは、軍事衛星技術やデータベースな どを使って、現在の自分の置かれた位置やこれからの方向性を示し てくれますが、電子カルテもそのような進化をとげるでしょう。
update: Thu Oct 7 17:41:45 GMT+0900 1999