わーくすてーしょんのあるくらし (40)
1990-07 大橋克洋
京大の吉原博幸先生が初めて当院を来訪された時に撮影された私の診察室
左に日本語 UNIX マシーン 東芝 UX-300 右がこのエッセーの語源 SUN-3 ワークステーション
5月号の「MacLife」を見ると第2回スタックウエア・コンテスト各 部門賞として、岐阜県の久美愛病院の看護婦さんが作った「看護業務支援シス テムVer1.0」というスタックがグループウエア賞をとり、掲載されてい た。
このエッセーを最初から読んでいる方は覚えておられるだろうが、今から4 年ほど前、岐阜県、飛騨の高山で開かれた第13回日本MUG学術大会で何か 面白いことを話して欲しいと頼まれた。そこで「これからの医療におけるコン ピュータのあるべき姿について--快適なマン・マシーン・インターフェース への提言」というテーマで講演を行なった。
MUGとはマンプス・ユーザーズ・グループの略だが、講演内容は何でも良 いとのことで、発売後1年ほどのマッキントシュで講演用OHPを作り、コン ピュータはこんな風にあるべきという理想について机上の空論をぶつけた。 内容はマウスとアイコンをフルに使い、医療の現場の仕事をこなす紙芝居的 なものだったが、その後、これに関連して衝撃的な事柄が起こった。
第1は、私の夢物語に刺激を受け、現場の看護婦さん達がこれを実現してし まったことである。講演内容はハイパーテキスト的にマウスのクリックで次々 と画面展開し仕事を進めて行くものだったが、彼女達はこれをExcelのマ クロで実現し、現場で使い始めた。これが今回の入賞作の原型である。 第2は、それから約1年後、講演内容そのままを実現したソフト、Hype rCardが発売されたことである。これには本当に衝撃を受けた。当時のO HP原稿(上図)を今ながめても、これはHyperCardそのものである。
昨年春から懸案の医師会事務局の経理業務アプリケーションをマックに載せ る仕事がまだ完成しない。コンピュータに全くの素人の事務員にも抵抗なく使 えるよう、マンマシーン・インタフェースの良いものをと、4ーth Dim ension、Excelを使ってみた。4ーDは意外にスピードが上がらな いし、Excelのいやらしいマクロは全く使う気がしない。
現状ではやはりHyperCardしかないという状況で、かなり出来上がっ たのだが、最後の集計作業がどうしてもうまくない。HyperCardの唯 一の欠点は、スプレッドシート的作業に向かないということである。今回のバー ジョンアップに期待していたが、ここはハズレのようだ。
WingzのNeXTバージョンを見る機会があり、「お、こいつはいけそ うだ」ということで、早速マック・バージョンを購入した。 Wingzを一言で表現するなら、Visicalcに始まる一連のスプレッ ドシートに、HyperCardの開発・操作環境的なものを載せたと言えば よいだろう。
Wingzではボタンやフィールド、ポップアップメニューなどをコントロー ルするためにHyperScriptという言語を使う。これはHyperT alkと似たようなものだが、テキスト・エデイターの中で書く他に、実際に マウスを動かして行なった操作手順そのものを記録する機能があるので、スク リプトの記述や操作コマンドの理解には大変便利である。
HyperCardほど、きめ細かくコントロールコマンドをサポートして いないない面もあり、洗練さという点ではやや劣るが、使い込めば殆どのこと は出来そうである。
感心したのは、初代MacーPlusに、20MのHDをつけ、メモリーを 4Mに上げただけのやつでもスイスイと結構の速度で動くことである。 ただし、えらくメモリーを喰うので、医師会の2MのMac-SE/30で は、すぐに「メモリーが足りません」とハンストを起こしてしまい、メモリー 拡張をすることになった。 給与計算などのアプリを作成するにも、もってこいの感じである。
NeXTで動く日本語バージョンが出たら是非購入したいと思っている。 と、よいことばかり書いたが、マニュアルは最悪。3冊に分かれていて、一 応分野別に分類、インデックスもついているのだが、これが全く役に立たない。 アプリを書いている途中で、ええとこういう機能はどこに書いてあるんだろう というと、3冊のマニュアルをぱらぱらとめくった位ではわからず、結局頭か ら総ナメにすることになる。
たった数行の例文があれば、一発で理解できることを、それがないばかりに どれだけ試行錯誤を繰り返した事か。 エエイ、いっそのこと自分で操作ハンドブックでも書いてやろうかと本気で 思ってしまったが、今度新しいバージョンが出た。その辺のところが大幅に改 善されていれば良いのだが。
「パソコンの汎用ソフトでアプリを組む人間は2つのタイプに分かれる。そ れはデータベース型とスプレッドシート型である」ということを書いている人 がいた。昔は自分はデータベース型だったのだが、こうなると今はスプレッド シート型かな。Wingzがあれば、大体のことが出来そうだし。
と考えているうちに、UNIXならもう一つのタイプがあるなあ、と思いつ いた。それは、テキスト・エデイター型である。 現在仕事に使っている電子カルテは、UNIX上でEmacsというエデイ ター上にLispで実現したものだが、この中でデータベース的な処理もして いるし、計算もしている。となると、私はエデイター型かしら。
いずれにせよ、世の中のパソコン利用の殆どが、この3タイプのアプリケー ションに絞られると思うが、最近はそのいずれもが他のジャンルの機能をもあ わせ持つようになり、いずれこの3つは一つの方向に収束しつつあるようにも 見える。パソコン出現前に事務作業というものが、この3つの因子から成ると いうことを誰か明らかにした人はあるのだろうか。
しかし、今後これにネットワークによる情報伝達と情報の分散管理機能が加 わるような気がする。 ところでHyperCardは、どのジャンルともちよっと違うようだが、 強いて分ければやはりデータベースなのだろうか。
5月頃からNeXTユーザ会発足の動きがあり、依頼により発起人の一人と なった。他にSRAの塩谷さん、富士通研究所の岸本さん、電総研の田代さん、 日産自動車の山田さんを含め5人である。しかし、依頼人からなかなかミーテ イングの連絡がない。
これにしびれを切らせた発起人達は ネットワーク上のメイルで連絡をとりあい、最初の打合せ会を開いた。 実際には互いに顔も知らない者同士、 この辺がネットワークの強みである。 塩谷さんの「NeXT の紙袋を提げて行く」というメイルで、 渋谷の大盛堂書店で初対面同士が待ち合わせ。 初回ミーテイングは私の自宅で行うことになった。 皆、意気統合してかなりの盛り上がりをみせ、 午後3時から始まった打合せ会が、終ったのは午後11時頃。 メーカー主導ではなくユーザ主導の運営で、 ユーザが楽しみに出席してくれるような 有意義な会にしていこうという結論が出た。
こうした数回の打合せを経て、7月25日に第一回の全体ミーテイングが開 かれた。NeXTを販売するキヤノン本社から正式のユーザ会発足は9月まで 待って欲しいとのことで、とりあえずは設立準備会という名目である。
準備会の案内状の発送から会まで数日しかなかったにもかかわらず、会場に は40名前後のNeXTファンが集まった。遠くは九州や神戸からの参加であ る。今回は時間の関係で、設立の趣旨説明とこの会のコンセプトをどこにおく かの意見交換にとどまったが、毎月第4水曜の定例会、年4回のニューズレター の発行、ネットワークなどによるNeXTに関する情報交換・Q&A、フリー ソフトの配布、定例会ではNeXTのソフトウエアについてのデモなども企画 していくことになった。
この会のことについては米国のユーザ会のニューズレターにも早速紹介され、 これを見たNeXT本社から逆にキヤノンへ問い合わせのメイルがあった由。 ここでもネットワークの威力を感じさせられた。
マルチメデイアのNeXTであるからには、ニューズレターは全て磁気媒体 で配布可能にする予定で、MOデイスクでもらってきてNeXTにさせば、文 字、グラフィック、音声、フリーソフトウエアなどの全てが展開させるような 形にするのが最終的なわれわれの夢である。Mac文化とUNIX文化の良さ を統合した新しい文化を築きたい。乞う、ご期待。 米国ユーザ会のニューズレター編集後記を読むと、この発行のために何日も 眠れぬ夜(徹夜)が続いたとある。ああ、これからが大変そうだ、、、