Why Medical Markup Laguage ?
大橋克洋(大橋産科婦人科)
雑誌「先端医療」 1997.12
「電子カルテ」普及のきざしの見えはじめた1995年春に、「電子カルテ研究会」が発足しました。電子カルテに興味を持つ全国の若手医師が集まって、情報やアイデアを交換しながら、これからの電子カルテはどうあるべきかを考えていこうというものです。 ここでまず最初に合意を得たのが、次のコンセプトです。
電子カルテ自体は、色々なアイデアによる色々な形態のものがあって良い。
しかしデータには互換性が必要
これから発展途上にある「電子カルテ」を考えるにあたって、最初から標準化や規制をすることは、生まれてくるべき良いアイデアやユニークな発想の芽をつんでしまいます。最初は「何でもあり」の形でスタートすべきということです。このような中で自然に良いものが淘汰されて残ってくるに違いありませんし、皆の意見を入れて磨かれてくるに違いありません。
ただ、最初にひとつだけ標準化をしておかなければならないことがあります。それは、そのような色々な形態の電子カルテ同志でデータ互換性がないと大変困ることです。どこのメーカーのどんなワープロを使っても構わないが、文書を入れたフロッピーが相手のワープロで読めないのは大変困ったものです。
このようなことから、「電子カルテ」自体には全く規制をしないが、ネットワークあるいはフロッピーなどで交換する「データ様式だけは標準化すべき」ということが合意されました。受け取ったデータを自施設内で使う場合に、独自の様式に変換して利用するのはまったく構いません。
これは電子メールの世界では何年も前から常識のことです。自施設内ではどんな漢字コードを使っていても構わないが、外を流れるデータは必ず JIS を使うという約束になっています。電子カルテではコードだけでなく、各項目が何を意味しているかなど、もっと広い意味での標準化が必要になります。
すなわち、目的は電子カルテのインフラを作ることなのです。そして電子カルテ研究会発足後、半年ほどして厚生省の「電子カルテ開発プロジェクト」が開始されました。ここでも電子カルテ研究会のメンバーが委員として、今後の電子カルテのインフラを作るためのお手伝いをさせて頂いています。
標準化 は「個々の自由度」を守るためのもの
日本では、ともすると標準化というと「何かを枠にはめて規制」するというような観念が強いと思います。しかし標準化の本当の意味は、まったくその逆です。自施設内では「自由な形式でデータを取扱いたい」からこそ、流通させる時だけは「決まった様式でデータを流しましょう」ということなのです。
「自由を確保するために標準化をしよう」ということを忘れてはならないとおもいます。でないと大変使い勝手の悪いものになってしまい、長続きしません。 外部転送の「お作法」さえ守れば内部は何でもあり、というのが皆にとってハッピーな状態であろうと思います(これは、まさにオブジェクト指向な考え方です)。
MMLは「電子カルテ」データ互換の仕組み
データ転送のためにどんな仕組みを使うべきかが議論されました。そこで一致した基本的な考えは「世界のデ・ファクト・スタンダードを使おう」ということでした。
最初は WWW を記述する HTML そのものを使ってはという案も出ましたが、最終的にはHTML の元である SGMLをのルールに従ったたサブセットを使おうということになりました。HTML は情報を表示する方向に強く傾いていますが、電子カルテのデータ転送のためには、より構造化できることが必要と考えられたからです。
そしてこの記述言語を、宮崎医大の吉原先生の提案で Medeical Markup Language と呼ぶことにしました。これが MML の由来です。
MML は「データ」転送のためのコンテナー
先に述べたように我々の考える標準化は、「個々に自由度を与えるための標準化」ですので、余り細かいことは規制せず HL-7 や DICOM などすでに存在する標準フォーマットの部分はそれらに任せ、むしろそれらを中に取り込めるように考えられています。
MML は宅急便で送られてくる段ボール箱のようなものです。
中に何を放り込んでも構いませんが、一番上に内容リストが添付されていたり、内容物にタグがついていれば、梱包を解いて自分の引き出しや棚にしまうのに便利でしょう。
MML は HTML 同様にタグ付きの言語ですので、どのデータが何を示すかがわかるようになっているのです。
昨年の医療情報学連合大会での発表演題を見ていても、そろそろMML でデータを吐き出すことのできる電子カルテが出現しはじめています。今年はもっと多くなり、その本来の目的であるデータの相互交換の実験も始まることでしょう。
Mon Mar 2 10:36:30 JST 1998