そもそも私のような場違いのものが、 ここでエッセイなるものを書くようになったきっかけにさかのぼる。
昨年秋に飛騨高山で開かれた第13回日本 MUG (MUMPS USERS GROUP) 学術大会に招請講演を依頼された。 テーマは「これからの医療用コンピュータシステムのあるべき姿について、 快適な man machine user interface への提言」というもので、 今後医療の現場で使われるコンピュータシステムは こうあらねばならぬということを述べたものだった。
というとカッコいいが、ひょんなことから突然講演依頼をされ、 中身はマンマシーンインタフェースについてであれば何でもよいということで 「ヨシ、それなら現実に今あるものではなく、夢でも何でもよいから理想的には こうあるべきと思うことを話してやろう」ということで案を練った。 MUMPS 学術集会に出て驚き感激したのは、 熱狂的な MUMPS 教が見受けられたからである。
この熱のこもりようはまさにアップルのユーザーズグループを思い出させられた。
私が話したのは「大部分の医師や看護婦はコンピュータに興味さえない素人で、 このような人たちに本当に必要なものはただひとつ、最良のマンマシンインタフェースである」 というもので、マウスとアイコン、ウインドウ、プルダウンメニューなどをフルに 活用した事例を示した。 これは全部私が頭の中で作り Mac Paint で描いたもので、 現実に動くソフトがあったわけではない。いわばウソの固まりである。
たとえば看護婦さんの病棟管理用アプリケーション例として示したのは、 基本画面に病棟の平面図がある。各病室の平面図には病室番号、患者さんの氏名 とともに、ベッドの絵や点滴注射の絵などがある。ある患者さんの情報を見たい場合は その病室の絵にマウスのカーソルを持っていってクリックすると、 パッと患者さんのカルテが開き、その中から必要なページをマウスで選んで 検査や処置の指示をみたりできるというものである。
余談であるが、この大会長をつとめた嶋先生(ソフトバンク出版の「ビギニングMUMPS」著者) が、大変熱心なMacファンで、もしかしたらMUGとは Mac Users Group では、 との声も聞かれたくらい。
この講演がかなりユニークだったとみえて、あんなことを載せてくれるなら インフォメーションを買ってもよいと、 どなたかが言ったとかで私にお座敷がかかったと聞いている。
昨年この OHP を作った時点では、「こんなものができたら良いな、 ねえ皆さんそう思いません?」という感じででっちあげたに過ぎなかった。 「現場の人間がこんなソフトを作るのは到底無理だし効率の悪いことおびただしいので、 このような考えを簡単に実現できるツールこそ今後最も必要」というのが私の結論だった、、、
あな嬉しや恐ろしや、1年もたたずこれが実現してしまった。残念ながらいつものパターンで 日本からではなくアメリカからではあったが。 すぐに思い当たった方も多いと思うが、これが最近 Mac のソフトとして発表された HyperCard である。
昨日、第7回医療情報連合大会が機械振興会館で開かれた。 私もここにこのエッセイの第5回で書いた「電子カルテシステム」を発表したのだが、 看護情報システムの部門で「ケアー表作成のシステム化を試みて」というタイトルで、 久美愛病院看護部の岩佐さんが発表したものは、 昨年私が机上の空論ででっち上げたものをマイクロソフト Excel を用いて実現したものである。
今までコンピュータに抵抗を示していた彼女達が、私の話を聞いて 「あんなものがあれば使いたい」ということで自分達で作ってしまったそうである。
御本人にお会いしてうかがったところ、彼女はもともとコンピュータのことなど 何も知らなかったので、私の話を聞いて Mac の上では当然できるはずと思って始めた由。
これこそソフトウエアの原点といえよう。われわれは技術的にできるできないを考えるべきではない。 こんなものが欲しいと考えることこそが大事で、その後でどうやったら実現できるかを考えるべきであろう。、、、というようなことをこのシリーズ第1回に書いた時点で、 まさか机上の空論を1年足らずのうちに看護婦さん達が実現してしまおうとは思いもしなかったし、 そのようなツールが実現するとも思わなかった。
参考までに昨年私が講演したウソの絵と、 今回看護婦さんにより発表されたホンとの絵を掲載させて頂く。 これに奮起して私も SunView を使ってホンマモンを作ろう。
それにしても HyperCard は凄い。看護婦さん達もこれを使えばもっと楽しく 現実的なものを作れるだろう。 これで漢字 Talk がまともになったら、日本でも本当のコンピュータ文化が開かれること請け合い。コンピュータアレルギーのお爺ちゃんもコンピュータ恐怖症のお母さんも、 皆が実際に使いはじめることになりそうだ。