わーくすてーしょんのあるくらし
1997-06 大橋克洋
< 1997.03 NeXT はどこからきてどこへゆくのか | 1997.07 Japan Developers Conference に参加して >
昨年の暮れ、NeXT 社は Apple 社に吸収合併されました。これについてはいろいろな 見方がとれると思います。
NeXT 社がいよいよいけなくなったので Apple 社に身売りした。
Apple 社の OS 開発が行き詰まったので NeXT 社の技術を買収した。
多少なりとも、どちらの要素も否定できないと思います。しかし、私はこれをネガテ イブではなくポジテイブに受け止めています。 もともとNeXT 社の技術者の多くは Jobs とともに Apple 社から飛びだした人達で、 そこで Mac のコンセプトに新しい技術を加えて独自の発達を遂げてきました。今回の吸 収合併は「よそで独り立ちした息子が立派に成長して親を助けに戻ってきた」と考える のが妥当と思うのですが、いろいろな雑誌を読んでもそのような書き方をしているもの は見当たらないのは残念と思っています。
親ほどの知名度はないが、親を数段上回る技術とパワーを身につけた OPENSTEPと、多 くの顧客と知名度を持つ Apple が、どのように協力して伸びてゆくかがとても楽しみで す。
かつて NeXT 社がハードウエアから撤退しソフト会社になった時、ユーザの中には「N eXT には将来がない」と言って去っていったものもいました。しかしあの時私はそうは 思いませんでした。「このように優れた技術がなくなることは決してない」と固く信じ て疑いませんでした。
結果としてNeXT 社はハードウエアを捨てたことにより、Motorola の CPU だけでなく Intel, SPARC, その他 HP や DEC の CPU の上で NEXTSTEP が動くというマルチプラッ トフォームの技術を身につけました。 ユーザにとっても NeXT 社の「格調高いが値段 も高い」ハードウエアではなく、もっとも「安く豊富に」手に入れられる Intel のハー ドウエアや周辺機器の上で NEXTSTEP の素晴らしい環境を享受できるようになり NEXTST EP に広がりを増したのです。
しかしこれからは違います。Windows に押され劣勢とはいえ、Appleの市場は NEXTSTE P とは違い完全に表舞台です。Mac ユーザにとって、最初は戸惑うこともあるでしょう が、多くのユーザが NeXT で培われた素晴らしいシステムに感動することになるでしょ う。元となる OS や開発環境が大変しっかりしていますので、その上で開発されるアプ リケーションも素晴らしいものが沢山でてくるはずです。 そしてそれは必ずWindows の世界へも大きな影響の波紋として広がってゆくはずで す。良い方向へ向かって。 一方、今までの NeXT ユーザ達は、Mac 上で市販される沢山のアプリケーションを、R hapsody 上で使えるという素晴らしい状況に期待をふくらませています。
先に述べたように、Rhapsody は今までの MacOS が抱えてきた多くの問題を解消し、 しっかりした OS と世界で最も運用実績の長い成熟したオブジェクト指向開発環境を 持っています。これが速やかにユーザの手に届けば Mac の優位性はかなり高まることは 間違いありません。
しかし現実はそう甘くはありません。「Mac から Windows へ --- これであなたも転 び Windows ユーザ」だったかな、ふざけたタイトルの本を書店で見かけました。Window s95 発売以来 MS 社の猛烈な宣伝攻勢に多くのユーザが急激に Windows へと自然崩壊を 起こしているのが事実です。勝負はいかに早く Rhapsody が立ち上がって、一般ユーザ の手元に届くかにかかっています。
予想していた通り、NeXT 社から移ってきた技術者は優秀で、極めて短期間のうちに O PENSTEP を PowerPC へ移植してしまい、開発は順調に進んでいるようです。とはいえ、 OPENSTEP そのままで出すなら年内は悠々ですが、従来の MacOS との擦り合わせをやっ ていかねばなりませんので、そこのところでどれだけの時間を費やすかです。 私の希望としては、とりあえず OPENSTEP に近い状態で来年早々にでも出荷してしま い、その後は多少時間をかけてでも Mac 環境での熟成を行い、1年位で大々的なバー ジョン・アップを行うのが良いのではないかと思います。ここで GUI その他の使い勝手 に大きな変更が起こるでしょうから、一般ユーザにはかなりの戸惑いも起こるでしょう が、良いものを出すためであれば許せるのではないかと思います。
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