好きな作家を一人挙げよと言われたら、山本周五郎を挙げます。 彼は町人ものや武家ものを得意とする作家で、残念ながらもう亡く なりました。作品には短編が多くとてもシンプルです。それでいな がら、男や女の情念、男女間の微妙な心理を、非常に簡潔でいなが ら目に浮かぶように描写してくれます。読後に残る余韻が何とも言 えません。学生の頃、黒沢明の作品「椿三十郎」を見て原作が山本 周五郎であることを知り、読み始めたのが始まりです。比較的最近 では映画「雨あがる」があります。映像も美しくとても良い映画と 思っています。
昭和20年代の日本映画を見ていると、時間がとってもゆっくり と流れています。人々は礼儀正しく素朴で、生活は畳のうえにタン スとちゃぶ台くらいのシンプルライフです。これは洋画を見ていて も同じです。西部開拓時代のものなどは特に。 現在の生活に目を移すととても便利になった反面、非常にめまぐ るしく複雑です。トータルで考えた時の幸せは増えたんだろうか。 本当に生活は快適になったのだろうかと考えてしまいます。
このようなことで、この頃は何とかシンプルライフにしようと努 力をしているのですが、なかなか難しいですね。手始めにうずたか く積まれた雑誌や段ボールでどんどん生活空間のせばまった自分の 書斎を一念発起して整理にかかりました。
何か捨てるのは惜しい、役に立つかも知れないと残してきた色々 なものを、思い切ってどんどんゴミ袋に放り込みました。かなりバ ッサリとそれらを捨て去ったつもりで確かに部屋はだいぶ広くなり ましたが、まだまだ雑物が多いなあと感じています。しかも、日が 経つうちに、またすこしずつ机の上や棚の上に、雑誌や書類などが 集積されていきます。 今回はちょっと前振りが長くなりましたね。そろそろ本題に入り ましょうか。
コンピュータのソフトウエアもまったく同じです。こちらもシン プルライフを旗印に、電子カルテ WINE のソースを見直して、切り 捨てられるところはなるべく切り捨てる作業を始めました。盆栽を 剪定するような気持ちで不要な部分を切り捨て、大分すっきりとし てきました。
私もあっという間に中年を過ぎたプログラマーに入っていきそう です。ソフトウエアも盆栽のように何世代にもわたって手塩にかけ られると面白いかなとも思いますが、技術革新の激しい現状ではち ょっと無理そうですね。あるいはコンセプトだけでも継承できるの かも知れません。実際、私が現在使っている財務会計ソフトなどは 、20数年前初めて買ったパーソナルコンピュータに付いていた一 冊の薄いBASICの本を勉強して作ったソフトが元となり、UCSD Pascal、昔の MacOS、C 言語、そして現在の MacOS X 上へと移植し てきました。言語もOSも違いソフトはまったく別ものですが、コン セプトは継承されています。
ソフトウエアを開発していて一番問題なのは、頭の中に全体の構 成を把握しておかないと開発ができないということです。世の中の すぐれたソフトウエアの多くは、一人の天才がかなり短期間のうち にエイヤっと作り上げたものが多いように思います。 ということは、彼らでさえもソフトウエアのソースを頭のメモリ ー上に展開しておいて、それらが消えないうちに一気に作る必要が あるのだろうと考えています。従って、ソースがシンプルであれば ある程、正確な把握が保持しやすく、バグが入りにくいということ になる訳ですね。
大分前に買った「天才プログラマー」というのを最近読み返して みると、彼らが異口同音に言っていることは「プログラムはシンプ ルでなければならない」ということです。これは私も今まで念仏の ように唱えてきたことなのですが、「言うは易く行うは難し」とい うところが悩みです。
先月号でちょっと触れた MacOS X Server についてレポートしま しょう。Apple 社が NeXT 社を吸収合併して、MacOS X をリリース するまでにとりあえず出したのが MacOS X Server でした。 この最初のバージョンの X Server の中身はほとんど NeXT 社で 開発された OPENSTEP そのものといってよく、それだけに安定して いてとても使いやすかったのですが、従来からの Mac ユーザにはま ったくのよそ者として異端視されていました。
この度、ようやく MacOS X に同化した本来の X Server のリリー スとなったわけです。従来の X Server は独自の OS でしたが、今 度のものは MacOS X の上に、ネットワーク・サーバとしてのいろい ろな機能を追加した構成になっています。従って、通常のMacOS X としての運用もまったく変わらずにできます。 この春に FreeBSD で動いていた Gateway server(DNS, sendmail などが動いていた)が完全にダウンしたので、PowerMac G3 上に M acOS X Serverの開発者向けお試し版を乗せ、苦労して DNS, sendm ail などを設定したことをお伝えしました。
今回は、正式な MacOS X Server 10.0.3 も手に入ったことだし、 そこに載っているServerAdmin.app を使えば DNS やメール配信シス テムもかなり簡単にできると聞き、挑戦しました。 お試し版の時には使い方がよくわからず、それにDNS などの勉強 をはじめていたところなので、何とか自力で bind をインストール し走らせることに成功しました。メール配信システムも最新の sen dmailを downloadしてきてインストールしました。
ネットワーク関係のシステムなど特に言えることですが、「うま く動いているものはいじるな。そっとしておけ」という原則があり ます。「もし動かなかったら困るな」の心配をよそに、「男は度胸 、エイヤっ」と gateway machine の MacOS X Server を正式版に入 れ替え、ServerAdmin で設定してみました。おー、たった半日で DNS も メール配信システムもあっけなく設定できてしまいました。
試行錯誤も結構あったのですが、うまく動いています。この春の 1ヶ月半にわたる DNS と sendmail との格闘は何だったんだろうと 思ってしまいました。UNIX から NeXT へ移った時の感動が久しぶり に再現されました。NeXT は UNIX の複雑さを隠しつつ、かつ UNIX のパワーを持つ素人にも使える初めての UNIX だったのです。
今度は POP だけでなく、念願の IMAP も標準でサポートされてい るので、設定してみました。うん、これでやっと便利になったぞ。 POP では異なるマシーンでメールを読むごとに、折角既読にした ものをまた未読で処理しなければならず困っていたのです。一日に 100通から200通近くのメールを読破しなければならない最近 では、この違いは大変大きなものでした。そのかわりサーバ側の M ailBox のバックアップをしっかりやる必要がでてきましたが。
ということで、今まで私にとって数ヶ月するとすっかり忘れてし まって、再設定となると大格闘となる外部ネットワークとの接続が とても簡単になり、時代の移り変わりを感じました。 UNIX と付き合うようになった10年以上前から、常にこのような システム設定を繰り返してきました。以前はこれも楽しい作業でし たが、最近は脳みそはスカスカ、根性も落ちてきたせいで、悪くす れば今春のように一ヶ月以上、良くても一日仕事になってしまいま す。
以前から、このような裏方の作業は人間がやるべきものではない と考えてきましたので、上記のごとくUNIX の生活から NeXT へ移っ た時、それに近い姿になって感激したものです。それが NeXT から Apple への移行期に再びやや複雑になり理解力を伴う作業を強いら れてきました。 ようやくそれも落ち着いて、これからは私の望むような方向へ向 かうのだろうと思っています。
、、、ということでしばらく快適に使っていたのですが、最近メ ール・サーバがどうも不安定になってきました。メールの配送が止 まってしまうことがちょいちょいあるのです。サーバを一旦落とし て再立ち上げすると正常にもどるのですが。
現在世の中では、コード・レッドなどのワームがネットワーク上 で猛威を奮っています。これは主として、Windows の世界のことと 思っていましたが、考えてみればそれらに感染した沢山の http サ ーバが、またそれぞれに膨大なトラフィックを撒き散らすの で、あるいはそれが関係しているのかも知れません。 幸いこちらのサーバが感染した気配はないようですが、Web サー バも時々止まるようになったところをみると、直接感染は免れても 膨大なアタックに耐えかねてダウンしてしまうのかも知れません。
今度のワーム騒ぎは、感染した http サーバ自体が感染源と して膨大なトラフィックを増やすという最悪のものですが、今後 もしすぐに対応できないような形でこのようなものがでてきたら どうなるのだろうと、ふと考えてしまいました。
そうなると一時的にせよ、インターネットが世界中で止まってし まうだろう。そしてそれがもし半永続的に続いたとしたら、ワーム をばらまいて楽しんでいた連中自身の住む世界をも破壊してしまう ことにもなるなと、とりとめもないことを考えました。 本当にいやな時代になったものですね。みんなでシンプルライフ をめざしませんか。