わーくすてーしょんのあるくらし (35)
1989-11 大橋克洋
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このエッセーを書き始めた頃から、繰り返し書いてきたことは「UNIX上 で動くMacが欲しい」だった。お題目のように唱えてきてから、もう3年以 上になるが遂にそれが実現した。 そう、NeXTがSun-3を旗艦とする我が連合艦隊に加わったのである。 今月は、そのホカホカのNeXTについてレポートしてみよう。
ウオズニアックと共にアップルを創設したジョブズの作品であるから、Ma cに盛り込まれた哲学がそのままNeXTにも継承されているであろうことは 容易に想像がつくが、実際に使ってみると想像以上にMacとの共通点は多かっ た。
例えば、Macではテキストの一部分をマウスでドラッグして反転させ、そ こをカットしたりコピー出来る。これはプルダウンメニューで行なうことも出 来るが、慣れた人間はこれを「コマンド・キー+X」や「コマンド・キー+C」 などでショートカットする。
NeXTでも全く同じキーバインデイングで、しかもMacより親切なこと にZ,X,C,Vのキーの側面には夫々、Undo,Cut,Copy,Pa steと機能表示がされている。 これはほんの一例で、ウインドーやアイコンなど「ルック・アンド・フィー ル」についてはアップルの権利主張を避ける意図もあってか多少デザインを変 えているが、Macの操作に慣れた人間にとって殆ど異和感がない。
というわけで見た目はMacそのものだが、中身はというと、これがSun で使い慣れたBSDそのものときているから嬉しい。 NeXTのOSは、Machというカーネギー・メロン大学で開発されたマ ルチ・プロセッサー用のものであるが、それは核の部分が主であって、使用さ れるライブラリーなどユーザーが直接触れる部分は、ほぼBSDそのままであ る。
従って、ターミナルのウィンドウを開くと見慣れたUNIXのシェル・プロ ンプトが出てきて、あとはSunを使っているのと何も変らない。 まだNeXTに慣れないので、急いで中を見たいとか、何かをしたい時はつ いターミナルの中で使い慣れたEmacsを立ち上げてしまう。
Emacsは標準で付いてくるが、NeXTのウィンドー対応ではなく、通 常そうであるようにターミナル・ウインドーの中で使用するだけで、NeXT がまだ日本語対応ではないのでNemacsを日本語ワープロがわりに使うと いうわけにも行かない。
thin-etherが標準で付いているが、現在利用しているSunのf at-etherに接続するには、その間にリピータをかませる事になる。 「ネットワークに接続しないワークステーションなんて、、、」ということで、 早速リピータを入れSunに接続した。 中身はUNIXであるから後は簡単でSunと同様にホスト・ネームなどを 設定し(これは、ウィンドウ・ベースのツールを使用して設定する)、簡単に 接続できた。
NFSも同様に全く簡単である。Sunと何も変らない、、、と言いたいと ころだが、マウント・コマンドでは簡単にNFSできるのだが、どういう訳か fstabに書いて立ち上げ時の自動マウントがうまく行かない、まだ研究不 足かも知れないので、もっとマニュアルを読むことにしよう。
SunとNFSが出来たので、早速前から懸案のSunのファイルをNeX TのMOディスクに落すことにする。 MOの利用も極めて簡単で、ポップアップメニューの中からマウントという コマンドをクリックするだけで、ホーム・デイレクトリーの下に簡単にマウン トできてしまう。あとは、通常のディスクに読み書きするのと何も変らない、 ちょっとアクセス音が派手なだけである。このようにして、Sunのファイル を簡単にMOに落すことができた。
Macのコントロールパネルに相当するものを開いて設定すれば、MOから ブートするよう設定も出来る。 或いは、HDからの立ち上げ途中で強制的にモニターに抜けて、MOからブー トするよう命令するという荒技も出来るが、これはエマージェンシーの時だけ にしておいた方が良いだろう。
エマージェンシーと言えば、NeXTが搬入されて間もなく、操作ミスか何 かの加減でHDのフォーマットが壊れ、立ち上げようとしてもシステムがディ スクのチエックでループしてしまい、まったく立ち上がらなくなってしまった ことがあった。
NeXTは電源オンから画面の輝度調整など、全てをソフト的にやっていて、 このような時は手の打ちようがない。電源オン・オフに通常使用するパワース イッチも効かない状態なのである。仕方がないので、エイヤっと電源をコンセ ントから引っこ抜くという、これまたUNIXではやってはならない荒技を披 露するはめになったが、後でよくマニュアルを読むと、このような時のために システムに割り込むキーの組み合わせが幾つか有って、これを使えば良いこと がわかった。そりゃ、そうだよね。
昨年からキャノンのレーザーショットをSunに接続しているが、これは現 状ではポストスクリプトをサポートしていない。Sun側にもポストスクリプ トが載っていないので、いずれにせよ利用できないのだが。
NeXTが入り、ワクワクして使ってみたのがこのポストスクリプトによる 出力、いやあーさすがである。 色々なフォントを自由自在に使ってのテキストも見事だし、グラフィックも 美しい。画面イメージなどを自由にアレンジしてLBPに出力するソフトがバ ンドリングされていて、これは大変便利である。
マセマテイカやLisp、デジタル・ライブラリーなど、通常それだけでか なり高価なソフトがバンドリングされており、これだけを考えてもNeXTは かなり安い買物と言える。
しかし一つ残念なのはMacにバンドリングされていたMacPaintに 相当するものが無い。 同様のものはあるのだが、MacのようにOHPやスライドの原稿を作ると いうには余りにも機能が貧弱すぎる。ここだけはジョブスらしくなかったなあ と思うところである。
NeXTのLBPはレーザーショットと同じキャノンのエンジンを使用して いるのだが、ちょっと具合の悪い点がある。私は多くの場合、プリンター用紙 はダンボール箱に何杯かたまる古い書類の裏側を使うのだが、これがすぐジャ ムってしまうのである。
裏紙を使って余り文句を言ってはいけないのかも知れないが、少なくともレー ザーショットではこのような事は殆どない。また、レーザーショットではジャ ムっても、お利口にジャムったページから再度出力してくれるのだが、NeX Tではジャムったものも既に出力したものと解釈して、その次のページから出 てくるので、後で抜けたページを再出力させなければならない。
これは数少ない苦情の一つである。NeXTに関して書きたいことがまだま だ有るが今月はこのへんで、、