「わーくすてーしょんのあるくらし」にもたびたび書いているように、私に とって理想のシステムは「sunの上で動くMacintosh」である。 現在はMac上でもA/UXというUNIXが動くようになったが、私の好 みを言わせてもらえば、UNIXを使うなら、sunのようなBSD直系のも のでないと、どうも。
昨年夏のステイーブ・ジョブス自身によるNeXT発表会の帰り、行きつけ のキャノン・ゼロワンショップに直行した。ゼロワンショップでは直接NeX Tを扱わなかったが、そこ経由でキャノン・ソフトウエアにNeXTをオーダー することができた。
NeXTを入れてみた感想を一言で言うなら、UNIX、それもBSDを使 いたい、Macのようなデスクトップ環境で仕事をしたい、sunやMacと も接続してネットワーク環境で使いたい、という私の要求にまさにピッタリの マシーンである。
sunで使おうとするとかなり高価なマセマテイカを始めとするソフトや、 Emacsなど優れたソフトが多数バンドルされていて、これを考えるとNe XTの値段は決して高くない。
厳密にはOSはMachであってUNIXとは異なるものだが、ユーザは殆 どそれを意識する必要なく、UNIXそのもののように扱える。 UNIXはグラフィック・インタフェース(GI)で被われているので、U NIXを知る人はそれなりに、知らない人もそれなりに使えるところが大きな 特徴である。少なくともウインドーインタフェースを備えない裸のMS-DO Sマシーンよりは、各段に使いやすいUNIXと言ってよいだろう。
ただ、何かでトラブルを生じ、それを回復する場合はUNIXシステムの常 で、中身を知らなければならない。 Macライクなシステムを期待して買うユーザに対しては、その辺のところ まできめ細かく面倒を見てやらねばならないので、販売する側も結構大変だろ うという感じはする。
一方この辺のところまで自分でやろうというユーザにとっては、例えば外付 けのHDを増設しようとしても、それに関するツール類は装備されていないよ うで、深く突っ込んだところではsunに及ばない。 しかし、UNIX標準のツール類については、殆ど標準装備されていること は言うまでもない。
UNIXであるからにはネットワーク機能は完備しているのが当然だが、こ れらのセットアップもGUIを使ったツールで簡単にできる。 現在、うちではNeXT、2台のsun、EPSONのPC-286V(い わゆる98互換機)をイーサネットで接続し、MacをRS-232CでNe XTの端末として接続している。
イーサネットへの接続も予想外に簡単で、NFSやrloginなどすぐ使 えるようになった。ただし、NeXTは標準でシン・イーサをサポートするの で、イエローケーブルに繋ぐには間にリピータをかませる必要があり、思わぬ 出費となった。
メイル・システムもsunで使い慣れたものに近いが、GUIにより使いや すくなっている。メイルに音声やグラフィックは勿論アプリケーションまで貼 り込めるのにはびっくり。メイルの中のアイコンをクリックすると、アプリケー ションが立ち上がるのである。
音声の収録・再生もラジカセ様の画面をマウスでクリックするだけで、収録 した音をこれまたマウスで簡単に切り貼りできるところなど、Mac感覚その ものである。このサウンド・エデイターはソースが付いており、自分のアプリ ケーションに組み込むことができる。 しかし、このようなメイルが行き来するようになるとトラフィックは確実に 増えるので、ISDNでも利用しなければなるまい。
開発者が同じだから当り前だが、NeXTの使い勝手は、予想以上にMac と共通する点が多い。 著作権の問題を配慮してか、ゴミ箱がブラックホールのデザインになったり、 クローズボックスやサイズボックスが異なるなど、多少Macと違う味付けを してあるが、使い心地はMacそのもので、いきなり使っても何も迷うことは ない。カット・アンド・ペーストを、コマンドキーとXやC、Vなどでショー トカットできるところまで全く同じである。
外見は使い慣れたMac、中身は使い慣れたsunと、はじめてNeXTを 使った時は、独りで思わずニヤリとしてしまった。 階層構造のデイレクトリーをわたり歩くデレクトリーブラウザーは、デイレ クトリーの全体構造を把握しやすく大変使い心地の良いもので、sunにもぜ ひこのようなツールが欲しいものである。
コンパイルなど実際に利用した感じでは、現在使っているsunー3よりや や早いが、べらぼうに早いという印象も受けない。近いうちに68040を積 んだNeXTが出るようで、これだと目に見えて違うだろう。 アイコンをクリックしてアプリケーションが立ち上がるまでに結構時間がか かる;。ポストスクリプトで展開するあたりにかかっているのであろうか。Ne XTはグラフィックを多用するので、標準の8Mメモリーはいずれもっと拡張 しなければなるまい。
標準装備のMOデイスクはリムーバブルなハードデイスク感覚で使える。し かし、現在の256Mではいずれ足りなくなるのは目に見えている。 いずれもっと大きなMOや68040をサポートする時は、Macでやられ たように差額だけのバージョンアップ・サービスに期待する。
一応MOだけでもシステムは立ち上がるが、UNIXは常にデイスクに読み 書きしているので、システムが立ち上がっている間はこれを抜くことができな い。ということはバックアップもとれないということで、実際上NeXTにH Dは不可欠である。
現在330MのHDを載せているが、これでも余り余裕がなく、圧縮した形 で提供されているTeXなどを解く場所がない。しかし、純正HDの価格は高 すぎる。近いうちに安い外付けデイスクを増設したいと思っている。 先日sunに600MのHDを増設したが、電源なしの裸のHDは50万を 切る値段で、これはNeXTに載っているのと同じメーカーの製品である。 デイスプレイの後側に、イヤフォンジャックやマイクのジャックが差せるよ うになっていて、前述のサウンドエデイターを用いて簡単に音声の出し入れ・ 編集ができるが、もっと本格的にオーデイオ関係機器を接続しようとする人に とっても面白そうだ。
高品位のレーザプリンターもNeXTの特徴の一つである。MacのNTX -Jとは違って、こちらはポストスクリプトやフォントはNeXT本体が受け 持ち、プリンターは比較的低価格で、机上の占有面積もやや小さい。 グラフィックや英文文字をプリントアウトしてみて、その美しさに感激した が、まだ日本語対応となっていないことが何と言っても歯がゆい。プリンター だけでも日本語対応になれば、かなり戦力になるのだが。
カセットは、キャノン・レーザショット、NeXT、NTX-Jとも全く同 じ規格で、相互に差し替えても問題なく使える。RS-232Cなどケーブル 類はMacと同一規格で、こちらはMacのものがそのまま使える。この思想 は、是非もっと広い範囲に及ぼして欲しいところである。
NeXTを無理しても買おうと決心をした理由は他にもある。ネクスト・ス テップと称する開発環境である。 現在、自分の業務用アプリケーションは全てsunで開発・稼働しているが、 Macのようなデスクトップ環境で使えるものを作りたいというのが永年の希 望である。SunViewでも出来ないことではないが、改良・保守を含め大 きな労力を要する。それより、業務の本当の流れをいかに能率的にするかに精 力を集中したい。
インタフェース・ビルダーで提供されたライブラリーを組み合わせるだけで、 GUI環境をフルに活用したアプリケーションを開発できるというところが売 りである。それをジョブスのデモで確認し購入したのだが、実際にはまだ本格 的な開発に手を染めていない。 確かにインタフェース・ビルダーでGUI関係のところは簡単にいくのだが、 それは外側を作るだけで、結局何をやるかという本質的な部分はObject ive-Cで書くことになる。
C++に関する本は沢山手に入るが、Obj-Cの本はまだ殆ど手に入らな い。現在はNeXTのオンラインマニュアルが最も詳しいもののようであう。 幾つかの言語を独学で習得してきたが、最短・最小の労力で学習するには例 文と良く出来たリファレンス・マニュアルが必要である。昨年Emacs-L ispに挑戦した時は、開始して1か月もたたないうちに、かなり大きなアプ リケーションを書けるようになった。Emacsにはこの2つが完備していた からである。 必要なのは「百の説明より一つの例文」である。
いつも先物買いの私で、Macを購入した当時、しばらくは日本語をしゃべ らず、アプリケーションもそろわず、まったくのオモチャでしかなかった。購 入当時のsunー3もしかりである。 残念ながらNeXTも現在は同じ状況で、相変わらずsunが主力マシーン として稼働している。
XウインドーとktermのNeXTバージョンが手に入り、NeXT上で も日本語を読み書きできるようになった。sunー3と比べ、NeXT画面の 日本語は各段にきれいである。 しかし、Nemacsなどでは問題なく日本語を使えるが、他のアプリケー ションでも使える訳ではない。
現在わかっているところでは、NeXTにはフレームメーカーなどDTPや、 Wingzという大変スグレモノのスプレッドシートがインプリメントされつ つあり、これに日本語がサポートされればビジネスに使うにも大変な威力を発 揮する事になる。何はともあれ、日本語化である。日本語化された時、NeX Tは大変お勧めのマシーンとなる。 キャノン・ソフトウエアーのお世話で、この5月に発足した「ネクスト・ユー ザ会」には、ユーザ相互の情報交換とNeXTの使い勝手向上への寄与を期待 したい。